医療者の私達こそ行動経済学的なバイアスを自覚するべき

 

医療現場の行動経済学

〜すれ違う医者と患者〜

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著者:大竹文雄・平井啓

 

Short summary

 医療に携わっていて患者さんとのコミュニケーションでうまく意思疎通できないことがあります。なんでこの人はこんな選択をするのか?本当に自分が言いたいことが伝わっているのか?そんなあるあるがなぜ起きるのか。行動経済学的な視点で説明してくれる本です。患者さんとのコミュニケーションの中にモヤモヤがある人は読んでみて下さい。

 

 

Review

 ガン末期の患者への病状説明や各種同意書を取る中で「本当にこの患者さんや家族さんたちはきちんと理解しているのか?」と思うことがよくあります。どのくらいの確率でどんなことが起きて…合併症の確率はどのくらいで…など正直自分でもイメージがつきにくいこともしばしば経験します。そんなモヤモヤにこの行動経済学の理論は答えを導いてくれるような気がしました。

 人が行動を選択する時には様々なバイアスが関係していることがよくわかった。特に医療現場では損失回避や現在バイアス、利用可能ヒューステリックなどが関与しているということがよくわかった。各々の詳細についてはみなさんもぜひこの本を読んでみて下さい。バイアスの詳細を理解するたびに「自分もこんな事あるなぁ」これもバイアスだったのか。。。と痛感します。

 まずは自分もバイアスによって行動を選択させられているということをよくわかっておこうと思いました。また、患者に行動を選択させたいときは損失回避を積極的に使って見ようと思います。「この薬の副作用は5%で〇〇みたいな副作用があります。」というよりも「この薬を使うと95%の人は特に副作用はなく使用できます。」といった言い方のほうが薬を飲む選択をさせやすいというものです。この説明の仕方をちょっとでもできるといいなと思います。

 

 自分が勉強してる文化人類学にちょっと似ているなぁと思いましたが、バイアスの考え方などは文化人類学にはない視点だなと思いました。相手や自分の行動を変化させるための学問といった印象です。自分にはなかった新しい視点だったのですごく面白く読めました!

自分がほしい本が見つかるかもしれません。

医療人類学を学ぶための60冊

〜医療を通して「当たり前」を問い直そう〜

著者:澤野美智子

 

  

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 タイトル通り、医療人類学を学ぶための60冊についてのポイントが記載してあります。医療人類学を学び始めて、これからもっと深く学びたい人には自分の思考にあった本を見つけることができるかもしれません。僕はこの本を読んでさらに『医療者が語る答えなき世界―「いのちの守り人」の人類学』(磯野真央穂)、『いのちの文化人類学』(波平恵美子)、『病院でつくられる死―「死」と「死につつあること」の社会学』(デヴィッド・サドナウ)、『脱病院化社会―医療の限界』(イヴァン・イリッチ)、『苦悩とケアの人類学―サファリングは創造性の源泉になりうるか?』(浮ヶ谷幸代)の5冊が自分の心にとまりました。

 正直、どの本も読んでみたいと思いましたが何分全部読むのは大変かと…文化人類学を学んでいて論文などを書かないと行けない文系の学生にはとても参考になる本ではないかと思いました。医学部は卒論を書かないのでよくわかりませんが…

 1冊1冊読みすすめてみて、医療人類学についての理解を深めていきたいと思います。

 

 

根本的な問題解決法を助ける思考法

 システム・シンキング入門

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著者:西村行功

Short summary 

 システムを意識すると言っても何を意識したらいいの?それをこの本が教えてくれます。システムの構造を理論的に説明してくれる本です。システムを理解することで問題の本質を見つけやすくなります。自分のやっている行動は実は本質的な問題解決法では無いかもしれません。あなたもシステムの世界に飛び込んでみませんか?

  

Review

 システムシンキングについては詳しくは理解していませんでした。そもそもシステムとは1つ1つの要素が関係し合って大きなものを動かしてるという漠然としたイメージしかありませんでした。それを言語化して学びたいと思い本書を手にしようと思いました。

 システムで最も重要な要素といっても過言ではないのが「時間」という要素を考えることでした。自分たちが考えている問題解決などは実は根本的な問題を見落としていることが多いようです。物事の本質を押さえられるようになることがシステムシンキングで重要視されることです。私達の問題解決の対応に対して結果はすぐにみえるものと、遅れて起こってくる結果があります。そこのフィードバックには時間がかかることが多いです。その遅れてくる結果のほうが根本的問題のことが多いため、時間という概念も考えなければなりません。

 問題を見つけるためには時間がかかるということも考えに入れて行動するようにしたいと思いました。また、目の前の問題ではなくその向こうにある“本当の”問題を見つけることができるようにシステムを意識していこうと思いました。

確率論を装った<弱い>運命論と戦う自分

急に具合が悪くなる

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著者:宮野真生子 磯野真穂

Short summary

癌に侵された哲学者と文化人類学者の手紙のやり取りを本にしたものです。自分は医師ですが、こういった切り口で患者を診ることはほとんどないでしょう。医師として弱い確率論を提示し、相手がどうしたいか意見を聞き…そんなもん「どうしたら良いかわかるわけないでしょ!」と自分の中のモヤモヤを語り合っている本だと思いました。作者お二人の出会いに感謝です。

 

 

Review

 文化人類学、特に医師として働いている自分としては医療人類学にもともと興味がありました。大学で恩師とも言える文化人類学の先生にお会いしたのがそのきっかけです。文化人類学とは人や文化を「理解する」ための学問と僕は捉えています。その切り口で、患者、医療者、家族、そして何より宮野さんを捉えて行く磯野さんの手紙に自分に足りないものを感じました。そして、自分が急に具合が悪くなる“かもしれない”と言われつつ、文面では楽しそうに、そして哲学者らしく文章を綴られる宮野さんの言葉で哲学の分野も勉強したくなりました。本文中にも記載されていた『偶然性の問題』という本は読んでみようと思いました。

 さて、この2人のやり取りをみて僕は医師として自分のあり方を少し考えさせられました。僕たち医師はあくまで〇〇%の確率で□□なります。といった勉強をしてきました。その情報をわかりやすく噛み砕いて患者に提供し、必要十分な情報を提供してから患者にどうするか決めてもらう。というのが最善の情報提示だとされてきました。僕も今まではそう取り組んできましたが、果たしてそれが正しかったのでしょうか?むしろ間違っていたのでしょうか?そんなのわからないというのが答えだとは思いますが、自分の情報提示のあり方を少し考え直そうと思いました。

 そんな数字ばかりの確率論では全くイメージが膨らまない。でもあなたが決めてください。それは僕もおかしいと思っていました。医療者側が決めたら決めたで、あなたが決めたから責任とってください。それもおかしな話ですよね。。。困りました。そんな僕としての答えは「一緒に悩み、二人三脚で歩いたり走ったり、時には立ち止まったりする」ことだと思います。僕たち医師も患者さんも、未来や過去を生きているのでは無く、今を生きてるのだと思います。そんな行き当たりばったりと思うかもしれませんが、そうやって毎回毎回を真剣に向き合っていれば変な方向にベクトルは向かないと確信しています。

 本文中に体調不良を乗り越える時の3つのセクターの紹介がありました。1つ目は民間セクター、2つ目は専門職セクター、3つ目は民族セクターです。人は1、2、3の順にセクターをあたっていくといいます。医師としての僕はもちろん2つ目の専門職セクターに属しているように思います。しかし、実際はどのセクターとの関係も大切であり、何ならすべてのセクターに属することもできるかもしれません。ダグラスという研究者は私達が確率論に基づく判断を手放すのは「経験に基づく判断が不可能なとき」と結論づけています。ここを見極めるのも医師の仕事でしょう。いくら医療的なことを言っても理解してくれない人がいます。それはここに属しているからだと思いました。僕たちはいろんな患者さんの症例を経験して、判断をしています。しかし、患者さんの経験はそこが初めてです。当たり前だけど忘れてしまうこと。でも本当に重要なことだと思います。

 この本を読んで1番思ったことは、医師は医学だけでは不十分だと言うことです。もちろん医学には特化している必要があるとは思います。しかし、哲学、心理学、人類学、社会学など患者を理解しようとするための学問、自分と向き合うための学問も学ぶ必要がある。個人的には文化人類学がお気に入りなので医学と文化人類学の二刀流でやっていきたいなぁと思いました。でも哲学もかじっときたいです(笑)。もっともっと文化人類学の本を読んでみようと思います。

システムってなんだろう?

みんなのシステム論 

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著者:赤津玲子 田中究 木場律志

 

 

Review

「システムってどういうことだと思う?」

と聞かれて全く意味がわかりませんでした。その質問をしてきた人曰く、世の中はシステムで出来ているということでした。そのシステムを理解するために本書を進められたので読んでみることにしました。

 一言で言うと、システムとは“要素同士が相互作用し続ける全体のことです”という記載がありました。“物事を単独ではなくセットで捉える視点のこと”であり、そうやって物事をとらえる事により物事の重要な点が見えてきて問題解決に役立つということでした。確かに、物事を大きな視点で捉えることで上手くいっていないことに気づくことができ、小さな歯車を修正するだけで物事が上手くいくことがあります。これを意識することで良いサイクルを築くことができるのではないかと思いました。

 本書をすべて実践するのはなかなか難しいと感じましたが、システム論の最初の一歩である「ジョイニング」を意識して問題解決に取り組んで行こうと思いました。ジョイニングとは“溶け込むこと”と表現されており支援対象者と二人三脚をしているかの如く、一緒に歩んで行くことであるとのことです。ただ、やり方は人それぞれ、場面ごとに違ってくるのでテーラーメイドな対応をしていく必要があるみたいです。

もはや教科書!男の義務教育にしたいくらいです。

女の機嫌の直し方

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著者:黒川伊保子

 

 

Short summary

 女性脳と男性脳の違いをあなたは知っていますか?女性脳の働きを知ることで女性の理解へ繋がります。キーワードは「共感」。モテたい男性、妻の話にイライラする男性、母がめんどくさいと思ってる男性、etc…すべての男性諸君に読んで頂きたい本です。

 

 

Review

 女の人と話していて、「なんでこんなに回りくどい言い方をするの?」「結局何が言いたいの?」と思うことがしばしばありました。男性諸君はそんな経験ありますよね?そんな時はイライラしてしまい、そのイライラから心無い返答をしていました。それで、お互いが悪い関係となってしまい、時には喧嘩をしてしまうこともあったように思います。

 この本を読んでまず女性脳と男性脳は違うものだと気付かされました。女性の脳のはたらきを知ることで、女性にどう対応したら良いかを知ることができました。そして何より「共感」することが大切だとわかりました。確かに、僕はまず結論を求めてしまっており、女性の話への共感が少なかったように感じます。女性は結論を求めているのではなく「共感」を求めているのです。

 しかし、とりあえず「共感」しておけば良いわけではありません。適当な相槌は逆に相手を不快にさせてしまいます。そのため、ほどよく共感してちょっといじるということを実践してみようと思いました。この“ちょっといじる“がポイントで、いじることは相手に関心がある証しだから十分な共感の後なら決して悪い気はしないようです。妻や母の話を聞き、共感してちょっといじるをやって見ようと思います。

 また、子育てのことにも触れている部分がありました。自分はまだ子供はいませんが“娘のために妻を依怙贔屓する”ことができれば妻にも娘にも良い影響があるようです。どんなこと(明らかに道徳的でないこと以外)があっても妻の味方であり続けたいと思います。

 

 他にも、この本通りにやればモテるだろうなぁと思うことがたくさんありました(笑)。僕の人生のバイブルは“ONE PEACE”ですが、それと同じくらい大切なことが書いてある本でした。もっと若い時に読めば良かった…。

 ただ、今からでも遅くありません。世の中の全男性に読んでもらいたいです。というか読むべきでしょ!(もちろん女の方も読んでOKです)

身体所見、意識してますか?

高齢者診療で身体所見を

強力な武器にするためのエビデンス

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著者:上田剛士

 

Short summary

 高齢化が進んでいる昨今の日本では医療の需要はますます高くなってくると思います。そこで検査をとりあえずするのではなく、身体所見をとり検査前確率を上げたり下げたりすることが非常に重要となってきます。この本には身体所見の感度・特異度などもしっかり記載しているためそういった点を意識するようになると思います。しっかり身体所見がとれる医者になりたくないですか?

 

 

Review

 高齢者のcommon diseaseをよく診ています身体所見は大切だと思いながらもないがしろにしていました。実際、何を診たら良いのかわからないことも多いためそうなっていたんだと思います。

 この本には自分が知っている身体所見はより詳しく、知らない身体所見はわかりやすく記載していました。書こうと思うと果てしなくかけてしまうので、割愛しますが高齢者診療をしていて身体診察をしっかりやりたいと思っていた自分にはピッタリの本でした。

 有効そうな身体所見は一覧にしてまとめ外来で目につくところに置くようにしました。そうすることでこの疾患がきたら、この身体所見をとるように心がけることができると思います。実際、先日もCOPDの患者が来ましたが期間短縮やHoover徴候など必要なものをcheckすることができました。身体所見はその場に症例がないとできないので意識して所見をとっていこうと思いました。